僕がいま手にしている文庫本は、

「昭和五十八年五月三十日 三十九刷」
と記されている。 発行は昭和三十六年である。

 実際に『モオツァルト』が書かれたのは昭和二十一年七月、
『無常という事』は、昭和十七年七月である。

 紙は赤茶け、カバーはもうぼろぼろになっているが、
三十年近くも、何度読み返しても、
僕を魅了し続けて止まないのは、
小林が語る内容もさることながら、
その語り口、文章の美しさ、
流れるような言葉の響きである。
 

モオツァルト・無常という事 (新潮文庫)

モオツァルト・無常という事 (新潮文庫)