「台風が

近づいてきているので、
早く帰りなさい」というので、
4時には会社を出て、家に向かった。
 
雨はまだ小降りだったので、
電車を降りてから、駅の本屋を覗いて、
面白そうな雑誌はないか物色して、
それからスーパーで缶ビールを3本買って帰った。
 
台風が近づいて来ていると聞いたら、
缶ビールが飲みたくなった。
 
窓際に椅子を運び、
缶ビールを飲みながら、
窓の外の台風の様子を眺めることを想像したら、
なんだかワクワクしてきた。
 
気まぐれに強くなったり、弱くなったりする雨が、
風にあおられて窓ガラスをバチバチとたたく。
 
ベランダのアレカヤシは、
陶酔して髪を振り乱すロック歌手のように、
風に吹かれる。
 
厚く暗く空を覆う雲。
駆け足で通り過ぎていく千切れ雲。
 
遠い昔の、子どもの頃に戻って、
ひとり小さな小屋に取り残されて、
興味津々の様子をうかがっているような、
なんだか寂しいような、懐かしいような、
切ないような気持ちになってきた。
 
台風に、缶ビールは欠かせない。