気が付いたら、
いつの間にか蝉の声は止み、
あちらこちらの草むらや植え込みから、
秋の虫たちの声が
聞こえるようになっていました。
子供の頃、
父親に連れられて、
近くの富士川の土手に、
マツムシやウマオイを採りにいったことを
思い出します。
暗くなり始めた頃、
懐中電灯と、
コップと虫かごを持って出かけました。
草葉の陰にとまって鳴く虫を、
手のひらで、コップに蓋をするようにして
捕まえるのです。
美しく優しい声ですが、
どこか寂しそうな、切なそうな風にも聞こえます。
何も虫たちは、
童話の中の世界のように、
ただ楽しんで歌っているわけではないでしょう。
暗い草むらの中で、
必死になって見えない相手を呼び、
探しあっているのでしょう。
そう思って聞くと、
虫たちの声も、
随分と違った趣をもって心に響いてきます。