帰った折りに、
親父の本を借りてきた。
海音寺潮五郎の「孫子」と、井上靖の「蒼き狼」だ。
親父は若い頃から、
「歴史物」、「時代物」の小説が大好きで、
実家には、吉川英治、司馬遼太郎などの本が山ほどある。
ところが、僕はこの手の本は一切読まなかった。
僕が実家に住んでいる頃も、
家を出てから時折帰省する際も、
「ああ、親父はまた読んでいるのか」と思いつつも、
自分はそれらの本に一切手を出そうとしなかった。
なんだか小難しそうな語り口が性に合わないと思っていた。
(きっと、大河ドラマのナレーションや、台詞のような、
仰々しい言い回しなのだろうと、勝手に想像していた)
あるいは、親父への反発の気持ちがあったためかも知れない。
実家に帰った時に泊まる部屋の、
枕元に古い本棚にが置いてあり、
そこに、親父の本が並んでいた。
それが、今年の正月に帰ると、
本棚の中は空っぽになっていた。
代わりに、本棚の横に大きな段ボール箱がひとつ置いてあって、
開けてみると、親父の本はその中に収まっていた。
以前、帰省したときに、僕が
「枕元に本棚なんかあって、地震が来たら心配だ」
と何の気なしに文句を言ったことを思い出した。
多分、そのことを気兼ねして、
親父が愛読書を本棚から引っ張り出して、
段ボール箱にしまったのだろう。
孫たち(僕の息子たち)に万が一があったら大変だと
思ったのだろう。
僕は、何となく申し訳ない気がした。
それと、これらの本が一旦しまわれて、
二度と誰にも読まれなくなったら、
もったいない様な気がした。
帰り際に、親父に、
「この本、2冊、借りてくよ」と素っ気なくきいたら、
「おお」と、親父も素っ気なく答えた。
親父は今年で70になる。
あらためて顔を見ると、随分皺も増え、肉も落ち、
年相応の風貌である。
・・・
いま、「孫子」を読んでいる途中だが、
結構、面白い。
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