ダルマ

波打ち際

この季節になると、
子供のころ、毎年楽しみにしていた「十日市」を思い出す。
 
二月の十日、十一日の二日間、
狭い通りに沢山の屋台が並んで、
大勢の人たちが集まった。

大概が、今日のように風邪の強い日だった。
 
「市」と言うだけあって、
普通の縁日のようなオモチャや、食べ物を売る店の他に、
昔ながらの臼や杵や農機具、ダルマや神棚なんかも売っていた。
 
父はいつもそこで甲州ダルマを買ってきて片目を入れた。
そして去年のダルマにはもう片方の目を入れた。
その前の年のダルマは、小正月どんどん焼きで焼かれた。
 
だからいつも実家の神棚には、
片目のダルマと、両目のダルマがひとつずつ並んでいた。
 
大きな目玉が三つ並んで、僕らを見下ろしていた。